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「あれんじ」 2018年4月7日号

【元気!の処方箋】
ロボット支援手術をご存じですか?

 多くの分野でロボットが活躍する時代になってきました。医療の世界はどうなのでしょうか。
 今回は、「ロボット支援手術」についてお伝えします。

【はじめに】

・体への負担が少ない手術が進化

 手術というと、「怖い」「痛い」「大きな傷がつく」「回復に時間がかかる」「身体への負担が大きい」といったネガティブなイメージがありませんか?

 確かに手術は患者さんに相応の負担をかけるものです。そこで、できる限り傷を小さくして痛みを減らし、速やかに回復をはかる目的で近年、「低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ=体への負担が少ない手術)」に注目が集まっています。

 「低侵襲手術」の代表的なものが、体表から体内へトロッカーといわれる筒状の物を刺し、そこから内視鏡(目の代わり)や手術用鉗子(手の代わり)を通して手術を行う腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術です。

 それらをさらに進化させたものが「ロボット支援手術」と理解してもらうといいでしょう。


【ロボット支援手術を知ろう】

◎メリット
・経験が技量の差に現れやすい内視鏡手術の欠点を補う

 腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術にも欠点があります。

 これらは内視鏡によりテレビモニターに映し出された体内を観察しながら鉗子を操作して行う手術です。テレビモニター画面は二次元(2D)画像のため、ヒトの目で見る三次元(3D)画像と違って立体感がありません。

 また、これらの手術で用いる鉗子にはヒトの手首のような自由度の高い関節がありません。外科医は頭の中で立体感を想像しながら、不自由な道具を駆使して手術しているのです。

 そのため熟練を必要としますし、経験値の差が技量の差に現れやすい手術といえます。ですので、学会では技術認定制度もつくられています。

 手術支援ロボットは、そのような欠点を克服すべく作られています。

・ヒトの目以上に細かな観察、ヒトの手以上に緻密な操作が可能

 ロボットの双眼鏡を通して見える3D画像は、まるでヒトの体の中に実際に入って観察しているのでないかと錯覚するほど自然で、しかもヒトの目で見る以上に拡大されているので細かな構造が詳細に観察可能です。

 ロボットの鉗子はヒトの手首と同等以上の自由度を持った関節を有しているだけでなく、手振れ補正機能がついているので、ヒトの手以上の正確さで緻密な操作が可能となります。

 拡大された3D視野、手振れのない高自由度関節といった特性は、体の奥深い位置に存在する膀胱、前立腺、子宮、直腸といった骨盤内臓器に対する手術や、拍動している心臓やその周辺の手術など、一般的に難易度が高いと考えられている手術にこそ威力を発揮します。

・平均点以上の手術を自分の暮らす地域で

 また、よく見えて手振れしないということは外科医の技量の差を最小化することにもつながります。

 つまり、難易度の高い手術であっても、自分の暮らす地域にいながら平均点以上の手術を受けら
れるということであり、これこそが患者さんにとって最大のメリットということができるかもしれません。



△デメリット

・力の感覚が伝わらないことや故障のリスク

 一方で、現在の手術支援ロボットには知っておくべきデメリットもあります。

 最大の欠点はロボットの鉗子には触覚がないことです。そのため外科医自身の手にも臓器を押し引きしている力の感覚が伝わらないのです。外科医はそのことを十分認識したうえで臓器の変形具合などの視覚情報で力加減を知りながら慎重に手術することが求められます。

 また非常にまれですが、ロボットも機械ですので故障のため動かなくなることがあり得ます。この場合、開腹手術や腹腔鏡下手術に変更する必要があります。せっかくロボット支援手術を希望してこられた患者さんには大きなデメリットです。

・機械のメンテナンスや操作者の体調管理も必須

 手術支援ロボットはよく自動車に例えられます。安全に操作・運転するためには、その機械の特性や操作方法を熟知する必要がありますし、操作前・運転前の機械のメンテナンスや操作者自身の体調管理が必須であることは言うまでもありません。

 本質的な欠点ではありませんが、現在の手術支援ロボットは非常に高価で、日常的に腹腔鏡下手術、胸腔鏡下手術を
行なっている病院であっても容易に導入できる機械ではありません。

 自分の通いなれた病院で気心の知れた外科医によるロボット支援手術を受けられるようになるには、もう少し導入価格が安価になる必要があるかもしれません。


【国内外の手術支援ロボットの普及状況】

 手術支援ロボットは世界中で約4200台、日本国内で約290台導入されているといわれています。

 前立腺がんに対するロボット支援下前立腺全摘除術は米国で年間約9万件、日本でも年間約1万件行われています。


【MEMO】
熊本大学医学部附属病院にある内視鏡下手術支援ロボット ダヴィンチSi

・熊本大学医学部附属病院では

 熊本大学医学部附属病院は平成25年6月からロボット支援手術を開始しました。

 前立腺がんに対するロボット支援下前立腺全摘除術(RALPあるいはRARPと呼んでいます)が平成24年4月から、腎臓がんに対するロボット支援下腎部分切除術(RAPN)が平成28年4月から、保険適用となっています。どちらも泌尿器科の扱うがんなので、私たち泌尿器科医がこれらの手術を行なっています。

 平成30年3月末までの実績は、RALP325件(平成29年度は78件)、RAPN28件(平成29年度は18件)となっています。


【図】

平成30年度診療報酬改定で保険適用される見込みの12術式

1. 胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術
2.胸腔鏡下良性縦隔腫瘍手術
3.腹腔鏡下肺悪性腫瘍手術(肺葉切除又は1肺葉を超えるもの)
4.胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術
5.胸腔鏡下弁形成術
6.腹腔鏡下胃切除術
7.腹腔鏡下噴門側胃切除術
8.腹腔鏡下胃全摘術
9.腹腔鏡下直腸切除・切断術
10.腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術
11.腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る)
12.腹腔鏡下膣式子宮全摘術


【終わりに】

・ロボット支援手術の未来

 平成30年度の診療報酬改定により、消化管外科、胸部外科、婦人科、泌尿器科各領域の12の術式が新たに保険適用となる見込みですので、さらにロボット支援手術が普及する可能性が出てきました(上図)。

 現在、国内外で次世代の手術支援ロボットの開発も進んでいるようです。この開発競争により、触覚などの性能の改善が図られ、導入価格も低コスト化されれば、近い将来ロボット支援手術が主流となる日が来るかもしれません。


執筆いただいたのは
熊本大学医学部附属病院 
泌尿器科
神波 大己(かんばともみ) 教授

・日本泌尿器科学会指導医
・日本泌尿器科学会専門医
・日本がん治療認定医機構認定医
・日本泌尿器内視鏡学会
 泌尿器腹腔鏡技術認定医
・日本内視鏡外科学会技術認定医