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「あれんじ」 2017年3月4日号

【元気!の処方箋】
20代から知っておきたい 高齢妊娠・出産の問題点

 社会や、個人のライフスタイルの変化などから「晩婚化」「晩産化」が進んでいます。 第1子出生時の母親の平均年齢が上昇傾向にあるなか、高齢妊娠・出産の問題点を知っておくのは大切なことです。

 今回は、なぜ高齢では妊娠しにくくなるのか、また高齢での妊娠・出産においてどんなリスクがあるのかなどをお伝えします。

【はじめに】

 日本はイギリスと並んで、世界でも1、2を争う高齢出産の国です。高齢妊娠とは35歳以上の妊娠出産のことで、40歳以上の場合を超高齢妊娠ということもあります。

 高齢妊娠では、さまざまな妊娠合併症の危険が増加します。40歳以上の女性の妊娠分娩では20代の女性と比較して、早産率が1・7倍、妊娠高血圧症候群の危険が1・8倍、さらに妊娠糖尿病の危険が約4倍、前置胎盤の危険が約10倍に上昇することが報告されています。


【女性の加齢と妊孕性(にんようせい=妊娠する能力)】


卵子は胎児期に作られ、二度と新たに作られない
【図1】加齢に伴う卵細胞数の変化

 高齢妊娠、出産をしようとするときの最大の問題点は、そもそも妊娠が難しい、妊娠する能力(妊孕性)が低いということです。

 精子や卵子のもとになる細胞は、受精して3週間もすると作られ始め、卵子であれば妊娠5カ月の胎児の頃に約700万個に増えます。精子はその後も新たに作られますが、卵子が増えるのはこの時だけで、女の子が生まれる頃には約100万個、月経が始まる頃には約30万個に減っており、これが枯渇した状態が閉経です(図1)。

 20歳の女性が排卵する卵子は約20年前に作られた細胞であり、40歳の女性が排卵する卵子は40年前に作られた細胞なのです。


【解説】染色体の一部が偏った受精卵が生じるのは…

 私たちの体の形や機能を作り出している分子はタンパク質です。タンパク質には多くの種類があって、それぞれがそのための遺伝子から作られます。タンパク質と遺伝子は、ちょうど一皿の料理とそのレシピのような関係にあります。私たちの細胞の中では、このレシピに相当する遺伝子が数千個ずつ塊になって染色体を作っています。つまり染色体はレシピ本のようなものです。

 ヒトの染色体は全部で23本あって、すべての細胞は両親から受け継いだ1組ずつ合計46本の染色体を持っています。2組ある染色体のセットは卵子や精子が作られるときに半分ずつになり、受精によって再び2組になるのですが、この染色体数を半分に減らす過程を減数分裂といいます。

 実は胎児の時に作られた卵子は減数分裂の途中で休んでいて、排卵の時に減数分裂を再開します。この過程に不具合があると染色体の一部が偏った受精卵が生じ、体の形や機能に異常が起きるのです。


加齢に伴い、妊娠しにくく、流産しやすくなる
【図2】生殖補助医療(ART)による女性の年齢と妊娠率・流産率

 高齢女性の妊孕性が低い原因は卵子の老化にあります。女性の加齢(=減数分裂再開までの期間が長くなる)に伴って卵子の減数分裂に不具合が生じやすくなり、染色体の過不足が生じやすくなります(解説)。

 卵子に染色体数の異常があっても排卵は起きますが、このような受精卵の大部分は正常に育つことができないため妊娠が成立しにくく、運よく妊娠しても
流産しやすい、流産しない場合でも染色体異常の子どもを持つ可能性が高まる、という一連のことが起きるのです。

 このことは体外受精・胚移植についての統計で明らかになっています。

 体外受精・胚移植による妊娠率は女性の年齢が上昇するとともに低下し、一方で流産率は加齢とともに上昇します。

 10代の女性が1回の体外受精で出産に至る率は約30%ですが、この割合は女性が30歳を過ぎた頃から少しずつ低下し、40歳で約8%、45歳では1%未満にまで低下します。さらに42歳を過ぎた女性の妊娠はその半数以上が流産に終わってしまい、子どもを授かる確率(生産率)は一段と低いものとなります(図2)。


【高齢妊娠と染色体異常】

 生まれてくる子どもの約3%には何らかの異常があるといわれています。染色体異常はそのうちの約4分の1を占めるに過ぎませんが、流産率の上昇と同じく染色体異常児を出産する割合も女性の加齢とともに上昇します。

 最も小さな染色体である21番染色体が3本ある状態は新生児にみられる最も頻度の高い染色体異常症で、ダウン症候群として知られています。ダウン症候群の子どもを出産する確率は、25歳の女性では約1500分の1であるのに対して35歳では約300分の1、40歳では約100分の1に上昇します。

 高齢妊娠には、女性の加齢と卵子の加齢、両方による問題があるのです(メモ)。


【メモ】高齢妊娠(35歳以上の妊娠出産)では…


【男性の加齢と妊孕性】

 これまで女性の加齢の話をしてきましたが、それでは男性の加齢は関係がないのかというとそうではありません。

 ヒトの精子は常に新しく作り続けられるため、女性のような配偶子(卵子)の老化、という事態は避けられますが、年齢上昇とともにDNA複製の誤り、すなわち遺伝子変異に由来する流産や病気のリスクが上昇する可能性があります。

 卵子の年齢が同じである場合、生産率は父親の年齢が5歳上昇するごとに26%減少します。さらに父親が高齢であるほど、子どもが自閉症や統合失調症となる確率や小児がんで亡くなる確率が、わずかではありますが上昇することが報告されています。


【終わりに】

 女性が社会の中で自立し、しかも出産、育児と両立できる社会は理想的ですが、現実はそう簡単ではありません。少なくともどちらを優先させるか、自分の意志で選べる社会が望ましいはずです。

 ヒトも卵巣も若返ることはありません。高齢になった女性がなかなか妊娠しないことに気付いて産婦人科を受診した時には時期を逸していることが多いのです。

 子どもを持つのを先送りする人生もあり、だと思います。しかしそれは、女性が高齢になって妊娠出産しようとするときに予想される困難さを若いうちに知った上で決めるべきでしょう。


執筆いただいたのは
熊本大学大学院生命科学研究部
産科婦人科学
大場 隆 准教授
  
・日本産科婦人科学会専門医
・日本超音波学会専門医
・日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医
・日本生殖医学会生殖医療専門医
・日本内分泌学会内分泌代謝科指導医
・日本周産期・新生児医学会周産期指導医(母体・胎児)