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「あれんじ」 2016年9月3日号

【元気!の処方箋】
加齢や外傷、高血圧や糖尿病などの全身疾患も原因に 網膜剥離(もうまくはくり)

 「網膜剝離」という病名は、プロボクサーが罹患(りかん)したといったニュースで耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、外傷だけでなく、加齢や全身疾患などにより誰にも起きる危険性があります。

 快適に「見える」生活を続けるために、原因や症状、治療法についてお伝えします。

【はじめに】

 網膜剥離の大半は眼内の加齢変化や外傷などで生じる病気です。放置すれば重篤な視力障害をきたす病気ですが、早期に治療することで視力障害を防ぐことができます。


網膜の役割〜カメラで言えばフィルム〜
図1

 眼はよくカメラに例えられます。カメラにはレンズ、絞り、フィルムなどがありますが、眼にもそれぞれに対応した組織があります。

 角膜・水晶体がカメラのレンズに当たり、網膜はカメラのフィルムに当たります。眼球の後ろ一面にある薄い膜状組織で、光や色を感じる神経細胞と、脳に情報を送る神経線維からできています。

 網膜は網膜内を走る網膜血管と網膜の後ろの壁(網膜色素上皮細胞・脈絡膜)から栄養を受けています(図1)。


網膜剥離とはどんな病気か?【原因】
図2

網膜が、後ろの壁にあたる網膜色素上皮から剥がれてしま
う病気です。

 大半の網膜剥離は神経網膜に裂け目(裂孔(れっこう))ができて起こるので、裂孔原性網膜剥離と呼ばれます。

 裂孔原性網膜剥離の主な原因は、眼内の加齢変化である後部硝子体剥離という生理的な現象が関係しており、進行すると手術が必要になります。

 それに対して裂孔を伴わない網膜剥離もあり、非裂孔原性網膜剥離といいます。非裂孔原性網膜剥離は、全身疾患(高血圧や糖尿病など)や、眼内の炎症や腫瘍などが原因で起きることが多く、原因となる病気を治すことが治療になります。

【後部硝子体(しょうしたい)剥離と網膜裂孔】

 眼内には透明なゲル状の組織があって、これを硝子体と呼びます。硝子体は、網膜と接着していますが、加齢とともに後方の網膜から硝子体が離れていく現象が起こります。これを後部硝子体剥離といいます(図2)。

 後部硝子体剥離は50歳以上で生じることが多く、それ自体は生理的変化で問題はありません。

 しかし、網膜格子状変性という網膜に薄い場所がある場合や、硝子体と網膜の癒着が強い場所があると、後部硝子体剥離が起こる際に、その部分が引っ張られて網膜に裂け目(網膜裂孔)ができます。その後、網膜裂孔から硝子体の液体成分が網膜の裏側に侵入し、網膜は後ろの壁から剥がれていきます。これが網膜剥離の原因となります(図3)。

 後部硝子体剥離は加齢による変化によって生じるのが普通ですが、眼球打撲などで眼球が変形して発生することがあります。

 また、後部硝子体剥離がなくても、強度の近視や遺伝的素因などで網膜に小さな穴(萎縮性円孔)が生じていることから網膜剥離を生じることもあります。若い人の網膜剥離は、萎縮性円孔や眼球打撲などの外傷によって起こる場合がほとんどです。


図3


網膜剥離とはどんな病気か?【症状】

・飛蚊症(ひぶんしょう)
 視野の中に何か浮遊物が移動するように見える症状です。白い壁を見た時や日差しの強い時に症状が強く出ることがあります。後部硝子体剥離が生じた際や網膜裂孔を走る血管から出血が生じた場合などに自覚されます。

・光視症(こうししょう)
 眼を動かした時に一瞬光が走る症状です。網膜の硝子体との癒着の強い部位が引っ張られたり、網膜裂孔が生じた際に起こる症状です。

・視野が狭く感じる

・物がゆがんで見える
 網膜剥離が進行すると、それに対応する視野が欠損します。視野の上側や下側が暗く感じるようになり、それが広がっていきます。また網膜の一番底にあたる黄斑という場所が剥離すると、物がゆがんで見えたり視力が低下したりします。


網膜剥離とはどんな病気か?【治療】
図4

 網膜がほとんど剥がれていない場合は、レーザーによる熱で網膜裂孔の回りを凝固します。網膜と後ろの壁(網膜色素上皮)が凝固により癒着を起こし、網膜剥離への進行を予防します。外来で行える治療です。 すでに網膜剥離が進行している場合には手術が必要となります。手術には、強膜バックル術や硝子体手術などがあり、網膜剥離の症状に応じて術式が異なります。

・強膜(きょうまく)バックル術
 網膜裂孔に対応する眼球の外側にシリコンスポンジを縫いつけて、眼球を内側に凹ませます。そして、網膜裂孔のまわりを凝固してふさぎます。凝固には冷凍凝固法などを用います。

・硝子体切除手術
 硝子体内につまようじのように細いカッターを挿入して、網膜を引っ張っている硝子体の部分を除去します。硝子体内にガスや特殊な液体を注入して、剥離した網膜を眼球の壁側(網膜色素上皮側)に押しつけます(図4)。

 裂孔は手術中にレーザーで凝固させますが、凝固部位が後ろの壁と癒着を起こすには約1週間かかり、それまでうつぶせ姿勢などの体位制限が必要となります。


早期発見や予防のための注意点

【早期発見のために】

 飛蚊症や光視症は、生理的な現象として現れることもありますが、網膜裂孔が生じた場合に現れることがあります。このような症状が出た場合は眼科で検査を受けましょう。

【予防のための注意点】

 片方の目に網膜剥離を起こしたことがある場合や家族に網膜剥離にかかった人がいる場合、強度の近視眼の場合に発病しやすい傾向があります。

 またアトピー性皮膚炎で、特に目のまわりの皮膚炎が重症な人にも多く見られます。白内障手術などの眼内手術を受けた人の場合も、眼内の環境が変化したことで網膜剥離が続発することがあります。

 これらに該当される方は定期的な眼底検査などを受けることをお勧めします。


【終わりに】

 網膜剥離は痛みを伴わないため気付きにくいのですが、前兆として飛蚊症や光視症が現れることがあります。また治療が早ければ早いほど視力への影響が少ないので、早期発見と速やかな治療が大切です。


執筆いただいたのは

熊本大学大学院
生命科学研究部眼科学分野

猪俣 泰也 助教
 
日本眼科学会眼科専門医
専門領域は、網膜疾患、黄斑疾患、未熟児網膜症、斜視弱視