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「あれんじ」 2016年4月2日号

【四季の風】
第33回 囀(さえずり)

 わが家の庭でも、五高の森でもいい。私は、大木の下で春の鳥たちの囀を聞くのが好きだ。これに近い季語に「百千鳥(ももちどり)」があって、これも春の小鳥が群れて鳴くことをいう。

百千鳥とおもふ瞼(まぶた)を閉ぢしまま    川崎展宏

 「囀」の字は、それだけでも何か塊(かたま)りみたいな感じで、この賑(にぎ)やかないのちの塊が頭上に降ってくるようだ。

囀をこぼさじと抱く大樹かな  星野立子

囀やピアノの上の薄埃(うすぼこり)    島村 元
囀に色あらば今瑠璃(るり)色に       西村和子  

 一句目は「こぼさじと抱く」と、愛情たっぷりで頼もしい大樹の句、二句目は繊細で、久しく音を発しないピアノと囀の対比の句、三句目は生き生きとした色彩感覚の句。どれも好きな句だ。

囀も靴音も絶え果てし町         岩岡中正
春寒や人知及ばぬことばかり         〃

 これらは、三・一一の震災時の句。あれからもう五年がたった。