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「あれんじ」 2016年2月6日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第51回】まず「抱っこ」から始めませんか?

女性医療従事者によるリレーエッセー【第51回】

【第51回】まず「抱っこ」から始めませんか?
さくらんぼこどもクリニック    
院長 杉之原 佳子

 4歳のS夫くん。いつも1歳の妹を抱いた母親の後ろに立ったまま笑顔はなく、他人と視線を合わせようとしない、小児科医として少し気になる子です。

 ある日、予防接種で来院したS夫くんは、不安な表情で母親の後ろに隠れています。妹を抱いた母親は診察椅子に座るようS夫くんを促しますが、母親の上着の裾を握ったまま動こうとしません。

 「お母さんに抱っこしてもらう?」と聞くと、S夫くんの顔が輝きました。スタッフに妹を取り上げられた母親が戸惑いながらも椅子に座ると、S夫くんはいそいそと母の膝に登ります。抱っこされたS夫くん、自分から診察の準備を始めました。

 別れ際、一馬力で子育てに頑張る母親へ、S夫くんの問いかけにすぐ応える、たくさん抱っこする、視線を合わせるなど、すぐできることをお願いしました。

 しばらくして来院したS夫くん、母親よりも先に診察室へやってきて「こんにちは」とごあいさつ、変身していました。

 ふれあいにより子どもは育つと言われています。子育ての目標は子どもの自立ですが、その土台には人への信頼感と自己への肯定感が必要です。この土台作りには、「大切な存在だよ」と抱きしめられる機会や、「大好きだよ」と表現される経験を、子どもが欲したときに与える必要があると思います。

 少し難しく聞こえるかもしれませんね。まずは抱っこから始めてみませんか? 抱っこされるとぴたりと泣きやむ赤ちゃんの姿を、診察室では多く見かけます。優しく抱っこされてうれしくない子どもは一人もいません。抱きしめられることによって子どもは安心し、癒やされ、勇気を持ち、生きる力を育んでいくのですから。