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「あれんじ」 2014年5月3日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
「実は生活習慣病!?」正しく知りたい顎関節症

 顎を動かす際に、口の開けにくさや顎に痛みを感じたことはありませんか。また、顎を動かす際に音が鳴ったり、口が途中までしか開けられなくなった経験はありませんか。

 今回は、こういった症状が現れる顎関節症についてお伝えします。

はじめに

 顎関節症は決して珍しいものではなく、日常生活のちょっとしたきっかけで起きてしまう病気です。

 食事のときに顎に痛みが出たり、口が開けにくくなると、不安になり食事も楽しくなくなります。しかし顎関節症の多くは、進行して顎の機能が壊されてしまうといった怖い病気ではありません。適切な対処で日常生活に支障のない状態にできる病気です。


【主な症状】痛い/音がする/口が開かない
症状が自然に改善するのが、顎関節症の特徴です

 「口を開けようとすると顎が痛い」、「顎を動かす時に音がする」、「あまり大きく口が開かない」は、顎関節症の3大症状といわれています。通常、これらの症状のどれか一つ、あるいはいくつかが組み合わさって現われてきます。

 顎関節症に関連するその他の症状としては、頭痛、首や肩の痛み・こりなどがありますが、これらの症状は他の病気が原因で起こる場合も多く、顎関節症によるものかどうか慎重な判断が必要です。

 最近、増加傾向にある高齢者の顎関節症では、若年者に比べて筋肉痛の占める割合が高いとの報告があります。

 症状の経過ですが、さまざまな年齢の顎関節症患者を対象とした、ある調査によると、関節音(顎を動かす時に出る音)がする人は23〜39%で、その中の0〜18%は徐々に症状が悪化すると推定されました。しかしこの悪化した状態を放っておいても、その70%は1年後には症状が改善し、残りの30%もそれ以上悪化することはないという結果でした。

 つまり、顎関節症による不自由さは、時間がたつにつれ大部分の人があまり感じなくなることが多いのです。


【診断】ほかの病気と区別することも必要

 顎関節症は、1つの病気に付けられた病名ではなく、顎関節や周りの筋肉が痛くなったり、口を開けると音がしたり、大きく口が開けられなかったりする病気の一群を一括して付けられた病名です。

 一方、口を開けると顎が痛い、口が大きく開かないなどの症状は、顎関節症以外のいろいろな病気でもみられます。そのため、「顎関節症」と診断するためには、考えられる他の病気を除外することが必要です。

 ちなみに顎関節症では、自発痛(何もしていない状態での痛み)があることはほとんどありませんので、自発痛が強い場合には、他の病気のことも考えて、歯科や口腔外科での診察を受ける必要があります。


【原因】生活習慣など複数の要因が重なって

【原 因】生活習慣など複数の要因が重なって


 顎関節症は、かつてはかみ合わせの悪さが原因だとされていました。しかし、かみ合わせのみで全ての顎関節症の発症を説明することは困難でした。

 そのため今は、いくつかの要因が積み木のように重なって、患者さんの顎関節や筋肉が耐久限界を超えてしまった時に発症すると考えられています(図1)。

 顎関節症を発症させる要因として考えられる生活習慣には、

【1】 歯列接触癖(図2)
  (ふと気づくと上下の歯を接触させている習慣)
【2】 悪いかみ合わせ
【3】 歯ぎしり
【4】 くいしばり
【5】 ストレス
【6】 片側だけでかむ習慣
【7】 うつ伏せに寝る習慣
【8】 電話器を顎に挟む癖
【9】 頬杖をつく癖

などが挙げられます。これらの何気ない習慣が重なり合って、顎関節症を引き起こすのです。


【治療】生活習慣を改善するセルフケアが最良

 もし顎関節症かなと思ったら、顎に負担をかけないように気をつけながら、とりあえず1週間は様子をみてみましょう。1週間たって異常を感じなくなったら、そのまま放っておいても大丈夫と思われます。症状が自然に改善するのが顎関節症の特徴です。

 症状が軽くなっても、口を開ける際に顎がずれて動く感じが気になる場合や、顎関節の大きな雑音が気になる場合には一度、近くの歯科医院にご相談ください。

 また、ごくまれに悪化して重症になる場合もありますので、1週間たっても症状が改善しない場合にも同様にご相談ください。一度、歯科医院での診察を受ければ、自分の症状がどの程度のものかが分かり、必要以上に心配しなくて済むと思います。

 顎関節症を引き起こす原因は、生活習慣の中にあるため、最近は、顎関節症を高血圧や糖尿病と同じような「生活習慣病」と考えるようになりました。ですから、生活習慣を見直し改善する「セルフケア」が最良の治療法です。治療は、生活習慣を改善するセルフケアを補助してあげることになります。

 ほとんどの顎関節症は患者さんの治癒力で治ることから、治療の基本は症状を和らげる対症療法を行うことになります(メモ1)。


【メモ1】対症療法の種類

◎スプリント療法

 上あるいは下の歯をプラスチック製のマウスピースでおおうことで、歯ぎしりやくいしばりをおさえ、顎関節や筋肉への負担を軽くする方法です。

◎スプリント療法以外の保存(非外科的)療法

 飲み薬や外用薬によって症状を緩和する薬物療法や筋肉のコリをほぐす低周波電気療法などがあります。

 非ステロイド系消炎鎮痛剤の内服や外用消炎鎮痛剤の塗布などを組み合わせた治療を忠実に続ければ、長くても1カ月以内に症状は大きく軽減します。

◎顎関節腔内洗浄療法

 保存的療法を長期間続けたにも関わらず、顎の痛みが治まらない場合、関節腔内の炎症性物質を除去する顎関節腔内洗浄療法を行います。

 痛みに加え、十分な開口量が得られない場合も同療法を行いながら、手を用いた開口訓練を行います。


【予防】上下の歯を離してリラックスしよう!
顎関節症はいくつかの要因が重なって起こる

 顎関節症を予防するには、顎関節症を発症させるさまざまな要因を一度に積み上げないようにすることが必要です。
具体的には

【1】 上下の歯を接触させない
【2】 硬い食品はなるべく避ける
【3】 うつ伏せで寝ない
【4】 歯のくいしばりをなるべく避ける
【5】 顎への負担の大きな楽器演奏を慎む
【6】 顎の緊張をほぐし、筋肉や関節を冷やさない
などが挙げられます(図3)。

 特に@については、顎関節症の痛みで来院された患者さんの多くがこの癖を持っていることが分かってきました。

 本来、人間の上下の歯は、会話や飲食時に瞬間的に接触しますが、それ以外の時には接触していません。上下の歯を接触させると口を閉じさせる筋肉(そしゃく筋)が働きます。接触が長時間に及ぶと、そしゃく筋は疲労してしまいます。また、そしゃく筋が働き続けることで顎関節は押さえ込まれる状態になり、血流が低下して痛みに敏感になります。

 こうして顎関節症を起こしやすくなるわけです。この癖を解消する方法としては、家や職場などで、「上下の歯を離してリラックスしよう!」と書いた紙を貼っておくことをお勧めします。


【図2】歯列接触癖が顎関節症を引き起こすメカニズム
(左)通常:何もしていないときは、上下の歯はほんの少し離れている
(右)歯列接触癖:上下の歯を長時間接触させていると筋肉が働き続けて疲労してしまい、顎関節も押さえ込まれる状態になるため、痛みを感じやすくなる


【図3】日常生活で、こんなことに気をつけよう!


今回執筆いただいたのは

熊本大学医学部附属病院
歯科口腔外科
中山 秀樹講師
歯科医師・歯学博士

日本口腔外科学会専門医・指導医
日本がん治療認定医機構暫定教育医・がん治療認定医(歯科口腔外科)