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「あれんじ」 2013年4月6日号

【四季の風】
第21回 野遊び

 早春の季語に「踏青(とうせい)」がある。「青き踏む」ともいうが、ちょっと古典的でおしゃれな言葉である。春先、青々と出はじめた草を踏んで散歩することである。いや「踏青」には、「逍遙(しょうよう)する」と言った方がふさわしいかもしれない。少し寒さもあるが、もうあたたかく、気持ちも大きく前向きになって歩くのである。

天上へ道あるごとく青き踏む      岩岡中正

 これに対して、「野遊び」という季語がある。「踏青」より少しくだけたイメージだが、「ピクニック」と言うよりずっと優雅だ。
 「ピクニック」は、いかにも軽やかで賑(にぎ)やか。「野遊び」といえば、昔の万葉人や平安人になった気もする。とはいえいずれにせよ、家族づれで弁当を開いて、子は駆けまわり、いかにも春満開という季語である。

人等みな翼得しごと野に遊ぶ     永野由美子

 いかにも野遊びらしい、開放感あふれる句で、「翼得しごと」が、うまい。
 私の恩師の高浜年尾先生はとても大らかであたたかい方で、私は次の句の直筆の色紙をいただいた。いかにも野遊びらしい満ち足りた感じの句である。

野遊びの心たらへり雲とあり      高浜年尾

 私はこの三月末で熊本大学の定年で、長い教師生活を終えたが、三十三年を振り返った最終講義を、次の句で締めくくった。ちょうどその日も、野遊びにふさわしい、いい日和だった。

来(こ)し方(かた)もまた野遊のやうなもの 岩岡中正