すぱいすのページ

「あれんじ」 2013年1月12日号

【四季の風】
第19回 寒(かん)の内

 私は昔から、一月の一番寒い「寒の内」が好きだ。昔は今以上に寒かったし暖房も乏しかったが、このころが一番身も心も引き締まって、何だか頭脳明晰(めいせき)になれる気がするからだ。

しんしんと寒さがたのし歩みゆく    星野立子

というわかりやすい句は、私が一番に覚えた句のひとつである。

整ふる倉子(くらこ)の朝餉(あさげ)寒卵     山村ふみ子
新婚の倉子も居りぬ寒造(かんづくり)         〃

 一句目の季題は「寒卵」で、寒中に産んだ鶏の卵。いかにも滋養がありそう。二句目の「寒造」は寒中の酒造で、これは一番美味。
 どちらも、寒さきびしい阿蘇の高森町の酒蔵の俳句。倉子とは、杜氏(とうじ)とも言って、寒のころ働きにくる酒づくりの職人さんたちのこと。若い新婚の倉子も単身で来たりするが、作者は母親のように何かと気を配って朝食を用意する。みんな家族同様で、どこかなつかしく、生活感あふれる句だ。
 それに「寒稽古(かんげいこ)」も、いい季題だ。これは、一年で一番寒いこの時期に武道や芸ごとの稽古に励むことで、私はこのいかにも厳しく凜(りん)とした雰囲気が好きだ。次の句など、舞の名手ならではの一句。

小つづみの血に染まりゆく寒稽古    武原はん

 最後に、がらっと変わって、一番寒いころの「大寒」の一句。小さな人間の生死などを超えたこの虚子の眼差(まなざし)には、凄味(すごみ)がある。

大寒の埃(ほこり)のごとく人死ぬる    高浜虚子