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「あれんじ」 2012年9月1日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
発達障がいを理解しよう

 「発達障がい」という言葉を耳にすることがあります。また、その中にもいくつかのタイプがあると聞きます。きちんと知らないことで、間違った対応をしてしまうこともあるようです。今回は、「発達障がい」についてお伝えします。

はじめに

 “個性”と“障がい”はどう違うのでしょうか? 以前は「子どもの持つ特性(発達の偏りやゆがみ、遅れなど)を、ある側面からみると障がいとなり、別の側面からみると個性(その子らしさ)となる」ものだと考えていました。
 しかし今は、「持って生まれた特性(個性)そのものは障がいではない。その特性(個性)のために、生活するうえで困難が生じる時に、その困難な状態が障がいである」と考えるようになりました。


“障がい”ということ

 障がいについてもう少しお話しします。「はじめに」で述べた特性を心身機能という面から考えてみましょう。
 以前は個人の持つ心身機能が通常とは異なっている場合、そのこと自体を障がいと考え、医療的にその違いを減らし、修正することが治療であり、療育(治療と教育・育児)であるという考え方が主流でした。
 しかし、現在の障がいのとらえ方は次のように変わってきました。個人の持つ心身機能は、その人の特性であり、その特性ゆえに、日常生活で困難さがみられる時に、その状態を障がいと考えるようになってきたのです。
 このことを身体障がいに関して考えてみましょう。そうすると、私はいつもテレビニュースで見た北欧の女性を思い出します。その方は胎児の時サリドマイドの影響を受け、四肢のうち片足だけが正常の大きさで、両手と残りの片足は手先や足先くらいの大きさでした。その方が次のように話されました。「私はアパートで一人暮らしをして、身の回りのことはすべて自分でできます。車の運転もできます。その私が障がい者でしょうか?」。その女性は確かに身体的特性(四肢のうち三肢が小さい)をお持ちでしたが、バリアフリー環境で日常生活での困難さは持っておられませんでした。
 ずいぶん前のニュースでしたが、今ではこのような考え方が世界的に支持されているのです。


発達障がいとは

 このように障がいを理解した上で、生まれた時から持っているいろいろな特性のために発達につまずきが出て、日常生活を送る上で困難が生じている場合に、それを発達障がいといいます。そのいろいろな特性には脳の働きが関係していますし、その困難な状態は通常18歳までに現れます。
 この時大切なことは、そのような困難は脳の働き方の違いが原因で生じているのであり、親の育て方が原因で生じているのではないということです。
 ここでは3つの発達障がいについてお話したいと思います。
 それらは、注意欠如/多動性障がい(AD/HD)、自閉症スペクトラム障がい、学習障がい(LD)です。
 どれも、見た目にはつまずきやすい特性を持っていることが分かりにくいために、躾(しつけ)の問題にされることが少なくありません。そして、わがままな子と誤解されてしまいがちです。
 実際には、ご家族にとっては育てにくさがあり、子どもたちにとっては学びにくさがあるのです。


注意欠如/多動性障がい(AD/HD)

 AD/HDの子どもたちは、7歳以前から、落ち着きのなさや考える前に動いてしまう衝動性、そして集中の続きにくさを持っています。こう書くと「それは小さい子どもなら誰しも見られる行動ではないか」と考えられることでしょう。その通りです。ただ、その行動がしばしば同年齢の他の子どもたちより著しいために、例えば、けがばかりしてしまうとか、お友達とトラブルになってしまう、集団活動にうまく参加できない、などの日常生活で不適応や困ることが強く見られる時、そしてその困難が園でも家でも、いろいろな所で起こっているという時にAD/HDと診断します。
 一般にAD/HDの子どもたちは、知的な遅れは持っていません。しかも、集中が続きにくいと書きましたが、実は好きなことには“過集中”してしまい、嫌だと思うとなかなか取り組まないので、「やればできるのに」「わがままだ」と思われて、怒られることもしばしばです。そのために、AD/HDの子どもたちは自信をなくしていることがよくあります。
 実際にはAD/HDの子どもたちの脳の中(大脳の前頭前野と呼ばれる部位など)で、ドーパミンやノルアドレナリンが十分に働いていないために現れている特性なのです。
 次のような対応が望まれます。
1.子ども自身が成功できるような工夫をほどこし、達成感を持たせましょう
2.褒めて意欲を引き出しましょう
3.難しさの程度がとても強い時、二次障がいが出ている時などには薬物治療も考えます(ただし、薬物はあくまでサポートに過ぎません)。
 それからもう1点知っておいていただきたいことがあります。実はAD/HDのお子さんたちはその特性の良さとして、素晴らしい発想力や行動力を持っていることも多いのです。


自閉症スペクトラム障がい (以下自閉症とします)
【図1】氷山モデル

 自閉症の子どもたちは、脳の働き方(情報処理)に違いがあるため、周りの状況や人の気持ちをうまく捉えられないとか、好きなことに没頭してしまう、強いこだわりを持つ、などの特性を持っています。そのため、出現する障がいは社会性やイマジネーションの障がいと言われます。
 自閉症と知的障がいとは異なりますので、自閉症の人たちは知的障がいを持つ人もいれば、知的障がいを持たない人もいます。知的障がいがないアスペルガー症候群や高機能自閉症を持つ人と、知的障がいがあって自閉性も重度である人では、一見、全く違った障がいに見えます。しかし、中心となる特性を見ると実はそれらが連続したもの(スペクトラム)の片方の端ともう一方の端を見ていることがわかってきました。それで、双方とも含めて、自閉症スペクトラム障がいと呼ばれるのです。
 自閉症はイマジネーションの障がいと言いましたが、それは対人面で他者の気持ちを推測する時のイマジネーションに難しさがあるという意味で、実は創造性という点では素晴らしイマジネーションを発揮する人も沢山います。
 自閉症の子どもたちへの対応を考える時には、まず氷山モデル(図1)で知っておくと役に立ちます。私たちに見えている行動は海の上に見えている氷山の一部だけですが、見えないところにさらに大きな氷塊部分である認知特性が隠れていて、実はその隠れている認知特性に寄り添うことが大切な対応になります。

幼児期早期の自閉症の子どもたちには
1.子どもたちの好きなこと、興味のあることにおいて彼らの役に立つ人になりましょう
2.周囲の世界を分かりやすく整理してあげましょう
3.そのためには、彼らが苦手な音声言語より、得意とする視覚を生かすとよいでしょう
4.聴覚だけでなく触覚や味覚などさまざまな感覚面の違いがみられることがあります。それらは生活上の困難を引き起こしやすいので気をつけましょう


就学前後の知的障がいのない自閉症の子どもたちには
1.その子が理解できる活動に関して、その活動が必要な理由や見通しを可能な限り伝えましょう
2.大切なことは視覚化(図や絵、文字が読める子は文字など)しましょう。そうすることで腑に落ちた理解となります
3.1人で遊ぶことが好きなら自由時間はそれを尊重し、集団活動ではルールを明確にして、参加しやすくしましょう
 自閉症の子どもたちは、実はまじめで素直な子どもが多いのです。そんな良さが発揮されるためにも、子どもたちにとって安心できる世界を提供し、周囲の人は信頼できると理解してもらえるように育てたいですね。


学習障がい(LD)

 学習障がいには、いろいろなものがありますが、ここでは特に“読み書き障がい”について取り上げます。
 たいていの子どもたちは、文字を読むことに自分から興味を持つし、いつの間にか文字が読めるようになっていることも多いものです。
 しかし、お話を聞くことやおしゃべりをすることなどは他の子と同じように(中にはそれ以上に)上手にできるのに、“文字を読む”となると極端に苦手な子どもたちがいます。
 このような読み書き障害を持つ子どもたちは、知的な遅れはないのに、文字を読むことに苦痛を覚え、クラスメートがすらすら読めるようになる中で自分だけが取り残され、「自分は頭が悪い」と学ぶ意欲と自信をなくしてしまいがちです。
 私たちは生まれつき文字を認識できる能力を大脳の後頭側頭部に持っています。しかし、読み書き障がいを持つ子どもたちはその部分が生まれつきうまく働いてくれません。それでも、時間はかかっても、どの子も必ず読めるようになります。
 ただ、他の子どもたちが読んで意味をつかみ、内容を考え、自分の考えをまとめている間に、読み書き障がいを持つ子どもは、やっと読んだけれど、考える時間が十分取れないまま、次の課題に移っていくということが起こりえます。
 そこで、読み書き障がいを持つ子どもたちへの対応として、
1.視覚だけではなく、五感をフル活用して、いろいろなことと関連付けて、文字を覚えやすくすること、
2.@と平行して、ご家族や先生が本(文)を読んであげることで(もしくはテープを活用して)、聴覚を通して理解させ、考える力を十分に育てることが必要です。
 読んであげて、口頭で答えさせるのであれば、クラスメートと同じように理解し、考える能力を持っている子どもたちです。


おわりに

 本日ご紹介した対応方法は発達障がいだからやった方がいいというものではなく、通常の子育ての中でも使える方法ばかりだと思います。
 それもそのはずで、実は、発達障がいの子どもたちと通常の発達の子どもたちとは二分できるものではなく、ある一つの特性を考えた時、その特性(個性)の強い子どもから、特性など全くない子ども(もしいたと仮定して)まで並べて線を引くと、すべての子どもたちがその線上に乗ってしまい、その線は切れ目のない連続したものになるのですから。


今回執筆いただいたのは
熊本県こども総合療育センター
小児科医

山田 みどり 医長

国立熊本病院(現熊本医療センター)や玉名中央病院を経て現職。自閉症への理解を広げたり、対応を考えるTEACCHプログラム研究会熊本支部副支部長