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「あれんじ」 2010年5月15日号

【専門医に聞く 元気!の処方箋】
〜病気を防ぐ第1歩〜 疲労を取ろう

 「なんだか疲れが抜けない」。新年度が始まって約1カ月、新たな環境での緊張が解けどっと疲れが出たり、急な気温の変化に体がついていかない感じがしたり…。心も体もお疲れモードという人も多いのではないでしょうか? もしそれが、「ちょっといつもと違う」という疲れなら、注意が必要です。
 そこで今回は、病気にならないための疲労コントロールについてお伝えします。併せて、疲労が症状として出る病気の例も示しますので、参考にしてください。

主観的な疲労感 医師に伝える際は具体的に

 誰もが口にすることがある「疲れた〜」。ちょっとゆっくりすることで回復する疲れなら心配いりませんが、「休んでも疲労感が抜けない」「疲れて何もする気が起きない」「慢性的に疲労を感じている」という場合や、疲労感以外の症状を併せ持つ場合は、疲労の陰にほかの病気が隠れているかもしれません。
 熊本大学医学部附属病院の総合診療部は、そういった多彩な症状のために受診する診療科が不明な方や、健・検診の異常など健康問題に関して受診が必要な方などの外来診療を担当しています。谷口純一講師は、「疲労を訴えて来られる患者さんはとても多いのですが、疲労感は主観的なものだけに十分にお話をうかがい、生活や運動習慣、生活の背景なども分からないと、診断や改善へのアドバイスが難しいものです」と話します。
 そこで、医師に伝える際のポイントをまとめると、

1.疲労の度合い

「仕事や家事ができないほど」とか、「なんとかこなしているが、一つ家事を終えるたびに休んでいる」など。

2. 具体的に疲労感を感じている期間、
きっかけなど

「何かの出来事をきっかけに、それ以来…」とか、「ここ2、3カ月…」など振り返ってみて。

3. 疲労感以外に症状があるか
「眠れない」「食欲がない」「筋肉痛がある」「よくのどが渇く」など、疲労感とともに感じていることを。

4. 「家族や自分のこと、あるいは仕事などで過度の緊張やストレスを感じている」「何もする気が起きず家でじっとしている」など、自分にとっては日常的なことでも。

 問診を通して得られるこれらの情報とともに、身体診察や必要に応じた検査によって、休養の取り方や暮らし方を変えることで解消される疲労感であるか、併せて治療が必要な疾患による疲労感なのか、探っていくそうです。


「どれならしなくてもいい?」「どれならしたい?」 頑張りすぎ、頑張れない、それぞれの人に…

 「疲労を回復する基本は、“適度な長さとリズムの整った睡眠”と“無理をしない”ことですが、実際には、頑張り過ぎて不調になっていると思われる方に『無理しないで、もう少し手を抜いてもいいんですよ』と言っても、『私は全然ちゃんとやれていない』と言われることがよくあります。まじめな方ほどその傾向が強いように感じます」と谷口先生。そういった方には、ご本人がしたい、またはしなくてはならないと思っていることを書き出してもらい、「あなたがしなくてもいいものはないか」について話し合い、過重になっている負担を外していくことを考えます。
 逆に「疲れて何もしたくない」という人には、「どういったことならやりたいか」「何なら無理せず楽しめそうか」を一緒に考えます。疲労の回復には休養も大事ですが、軽い運動も効果があります。「適度に体を動かし、楽しさとやりがいを感じること」も勧めます。
 一見真逆のタイプに感じる両者ですが、“楽しむことが苦手”という共通点があるようだと谷口先生。“楽しいと疲れを感じない”のは、多くの人が経験したことがあると思います。「ぜひ人生を楽しんでほしいし、楽しんでいいんだと思ってほしい」と言います。一方で、前述のような投げかけに対して「それすらできない」ということになると、単なる疲労ではなく、そこに何らかの疾患が隠れている可能性を考えなければなりません。


「きつい」「だるい」は、多くの疾患に見られる症状 精神科や内科など幅広い領域に

 疲労を症状とした疾患で考えられるものには
A・うつ病(状態)
B・糖尿病やがん、甲状腺疾患などの 内科的疾患
C・慢性疲労症候群
などがあります。

A【うつ病(状態)】
 疲労感+眠れない、食欲が落ちる、気分が落ち込む…などの症状が認められ、意欲が起きない場合、うつ病やそれに近い状態であることがあります。
 強く「死にたい」と願う気持ちがあるなど症状が重い場合は精神科での診療が必要でしょう。しかし、そうでない場合や、精神科受診への抵抗感がある場合などは、かかりつけ医や総合診療科受診によって、改善を目指すこともあります。生活のペースダウンや周囲へのサポート依頼など、病気に対応した暮らしの調整をし、必要に応じて投薬や臨床心理士のカウンセリングを受けるなどします。

B【糖尿病やがん、甲状腺疾患などの内科的疾患】
 「きつい」「だるい」といった疲労感や無力感は、さまざまな内科的疾患の症状としてよく表れるものです。糖尿病の場合、「のどが渇く」「トイレが近くなる」などのほかの症状も表れますが、疲労感が出るのは短期に悪化した場合に多く、注意が必要です。しかし、疲労というサインを見逃さず、早い治療に結びつけられれば、かなり改善するものもあります。それは、疲労を症状に持つ病気全般で言えることです。
 「疲れた=病気かもしれない」と不安をあおるわけではありませんが、疲労という体が発するメッセージに耳を傾けることで、防いだり、早期回復につなげる道があるようです。


【慢性疲労症候群】
 AでもBでもない場合、疑われるのが慢性疲労症候群です。といっても、必ずしもそうであるとも言えません。それほど慢性疲労症候群はまれな疾患であり、原因を含め、まだよく分かっていないことが多い病気です。
 慢性疲労症候群の症状である疲れは「疲れた、疲れた」と言いながらも仕事をすることができるような生やさしいものではなく、日常生活すらままならないほど強い疲労感だといいます。しかし、血液検査などのデータによって診断できるものでもないため、その診断はとても難しいものです。 原因がはっきりしないと不安もあるかもしれませんが、周囲の理解・支援を得ながら、治療を続けましょう。


まとめ 疲労対策は十人十色 生活パターンを変えるのは自分で

「内科的疾患がだるさ、きつさの原因である場合も、それによって気分が落ち込み、ますますしんどい…ということはよく起きること」と谷口先生は言います。また、精神的要因が体調に及ぼす度合いも人によって異なります。当然、疲労対策は人それぞれ。万人に当てはまるものがあるとはいえません。
 そこで、それぞれにあった改善策を考えます。生活パターンや習慣を変えることで改善する疲労もあります。しかし、それも「人(家族や医師など)に言われて」や「しぶしぶ」では長続きしません。自分で考え、自分で決めてこそ、行動は変えられます。以下にいくつか項目を挙げますので、あなたの生活習慣自体が疲れを生んでいないか、チェックしてみましょう。

 
□起床・就寝の時間は一定ですか?
□寝る前にアルコールを取りすぎたり、
 テレビやDVDを長い時間見たり、
 ゲームに興じすぎたりしていませんか?
□適度な運動はしていますか?
□好きなこと、趣味がありますか?
□あれもこれも「自分がしなくては」と 
 頑張りすぎてはいませんか?
□ゆっくり休むことに罪悪感を感じて はいませんか?

いかがですか? 少し改善した方が良いなと思う点があったら、自分で「ここを変えよう」と決めて、取り組んでみてはいかがでしょう。


今回教えてくださった先生
熊本大学医学部附属病院
総合診療部
谷口 純一講師
日本内科学会認定総合内科
専門医、指導医